着物の教科書とは?

もっと着物を楽しみたい方へ

✔️ 着物を着てみたいけれど、高価だから踏み切れない・・
✔️ もらった着物や反物があるけれど、どうしたらよいだろう・・
✔️ 着物のお手入れ方法がわからない。相談できるひとはいないかしら・・

そんなお悩みをよく聞きます。そこで、このようなお悩みを解決するサイト「着物の教科書」をオープンしました。着物だからこそ得られる、うれしい体験やエピソードは数多くあります。富山で創業107年をむかえた「おかもと呉服店」3代目、岡本有紀子さんに聞きました。

 okamoto_profileおかもと呉服店店頭にて

−呉服屋の後を継ぐことは、子供のころから意識していたのですか?

呉服屋に生まれたので、着物はいつも生活の中にありました。お店を通って学校に行き、帰ってきたらお客さんや問屋さんがいる。「呉服屋っていうのは着物の相談にのる仕事なんだ」。母の姿を見て、物心ついたときから、そう感じていました。

ただ、当初は継ぐことを全く考えていませんでした。東京でディズニーランドや高級ブランド店で働いていました。一人で店を切り盛りする母が病気になったことをきっかけに富山に戻りました。37歳のときです。

もう一つ、後継を決意したのは、着物業界が抱える技術者の高齢化、後継者不足という問題です。職人さんの技術を継承していけるのは、ここ10年といわれています。今、高級な着物が売れるような状態にしていかないと、素晴らしい日本の伝統技術が無くなってしまう。よいもの、本物を求めてくれる人がいないと、着物文化は失われていってしまう。ここで消してしまったらダメだ、と思いました。

wedding_kimono

−肌にやさしい和装用下着は話題を呼びましたね

「きもの やわらか肌着」開発のきっかけは、私も40代になり肌が変わってきたことです。40代になると肌質は変化し、乾燥で汗や化学繊維でかぶれがちになります。ベースの部分から改善しないと「着物を着るのはやだ」ってなってしまう。敏感肌用の綿の肌着を探してもなかったため、自分で作ってみようと思いました。

−お客様の反応はいかがでしたか?

初めての販売は、2015年秋に開催された「北陸ビジネス街道2015」の物産展でした。物産展で着物の下着なんて売れないだろう、と思ったけれども「こういうの欲しかった」と注文がきたのです。地元の新聞やテレビで「きもの柔肌着」の開発が報道され、予約の連絡も入るようになりました。神奈川県の和装業者もウワサを聞きつけて扱ってくれることになりました。 ネット販売は準備中です。

−肌着の開発から学んだことはありましたか?

人は皆サイクルの中にいるのだから、それを断ち切ってはいけない、ということです。

綿を生産している国には貧困層があります。この子たちが綿花を取っているのです。 綿の枝の高さは高くないから、小さい子の方が取りやすい。なので5歳から15歳くらいまでの女の子たちが学校に行かず綿を取っているのです。

綿を作っている子がいる。綿を用いた商品を作っている人がいる。その商品を買ってくれる人がいる。だれが欠けたとしても回らない、このサイクルの中に自分もいるのです。

この中で自分が還元できることは、商品の売り上げから貧困層の子たちが学校に行けるように戻すことです。 「綿を取っている子たちの活動を応援しよう」という団体に寄付するとか、そういうことでこのサイクルは動いている。

何が社会貢献かっていったら、そのサイクルの中に入っている、ということです。一人でできるんだったら、一人で綿花から作って、一人で織物を作って、一人で売ればいい。それができないから、関わっている人たちの助けを借りながら、自分たちも仕事させてもらっている。

その中の自分の役割を全うすることがサイクルを止めないこと。自分は呉服屋だから、問屋さんや生産者さんから着物を買わせてもらう。それを販売させてもらう、っていう立場でいるだけです。

−呉服屋をやっていて嬉しかったことは何ですか?

おばあちゃんから母、そして娘に。長い時を重ねて、なお色あせることのない着物を見ることは心の財産です。着物を買ったときももちろん立派だけれど、今見ても立派。

「こういう代々着れる商品を扱わせてもらえるようにしてくれた両親や、問屋さんたちの信頼も引き継いでいかないと」と感謝の気持ちになります。着物を買ったおばあちゃまが、娘、孫と一緒に写真館で写真を撮る。それを見て「良かった」と娘がほろりと泣く。

こういった光景を見て「こういうことを提供するのが私たちの仕事だ」という意識が芽生えました。どういうセッティングをすることがお客様の満足感につながるか。どういうことが家族のメモリアルになるか。記念ごとのお手伝いをすることも、自分ができるお客様への貢献です。

−着物は高価。ハードルが高いと感じます。

着物で30万、40万円。よくこんな高いもの買えるよね、と問屋さんからも聞きます。けれど、そこそこの年になっているなら品格のあるものを持つことをお勧めします。数は持たなくてよいから、ちゃんとしたものを。ただし、高い商品ばかりではありません。

例えば浴衣。おかもと呉服店の着物は全部、反物から仕立てます。生地自体は1万円代からあります。プラス、仕立て代は1万4千円くらい。専門店だから高いって思われるけれど、そんな馬鹿高いわけじゃないです。百貨店のデザイナーズブランドは6万円台もあるけれど、全然うちの方が安いです。問屋さんから買い切りで仕入れているので。

デザイナーズブランドは、芸能人やデザイナーの名前があるから高くなる。品質は全く関係ありません。ずっと着られるか?っていったら、長く着られる古典柄なわけではありません。お手入れさえしていれば長く着られる。そういうのが一番です。

良いものを求めていたら、おかもと呉服店に来て欲しい。どんな着物を着てもよいです。ただ、良い浴衣をビシッと着ていたら本当にかっこいい。

−店頭に並んでいた7万円のかごバッグは、以前見た1万円のバッグとは格が違って見えます。

7万円のバッグは、1つあれば孫末代までです。1万円のバッグを数年で使い捨てるくらいだったら、7万円のバッグを持つ方が良い。流行り廃りもないし、10年以上使えます。

−レンタルとの違いは?

レンタルは自分で買ったものではないから、扱いや所作がぞんざいになるわけです。1万円のバッグを2-3年で使い捨てる、と思ったら置き方はどうなるか? 「ゴン」ってなるわけです。じゃあ自分で買った7万円のバッグはどうなるか? 丁寧に置くでしょう? そこで自然と所作が美しくなるから綺麗に見えるわけです。

だから、良いものを持つっていうことは高い買い物じゃなく、自分の所作にもつながってくる。物を大切に扱う、ということにも繋がる。

                                                  
−着物を着ていて得したことは?

着物をきれいに着ていると大切に扱われます。着物でホテルにチェックインすると部屋に空きがあれば、かなりの確率でアップグレードされます。レストランでもいい席にとか、真ん中の席にとか、何度も体験しています。
着物があれば、高級な洋服やアクセサリーがなくても十分におしゃれを楽しみ、場を華やかにすることもできます。海外で着物を着ると、とても喜ばれます。自分で着物を着れるとよいですね。若いひとには、まずお母さんの着物を借りて一緒に出かけてみてほしいです。
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